当社の主軸事業は経営コンサルティング業、そしてその中でも「事業再生」というフィールドを専門としてきた。

金融系出身者がいるのも、そうした事情である。

もちろん様々な業種業界によって、また個別の企業によって異なる問題も多いが、たくさんの会社を見ているうちに結局再生しなければならない事情にいたる理由は一つに収斂するのだと思うようになった。

よって、個人的には「とどのつまり再生手法はどの会社でもほぼ同じ」と考えている。

もちろん各論としての具体的な手法は様々で同じものはなかなかないが、総論としては一つである。

「顧客を知る」

再生にいたる企業の多くは顧客を知らない。

資金繰りが回らないのはもちろん資金管理の甘さもあるが、現在では多くの場合「利益減少」が主要因である。

売上が下がっている、収益構造のスリム化ができない、こういうことが積み重なってキャッシュ不足に陥る。

当然だが、利益が出ていればこうしたことにはならないわけで、利益はすべてを癒す。

さて、利益を生むには売上が必要であり、売上には顧客が必要である。

ところがこの売上が作れない、伸ばせないという経営者が多い。

つまり、「売れない」のが原因だが、なぜ売れないかといえば顧客を知らないという一点に尽きる。

アンケートをとる前に、想像力を働かせる

顧客を知れ、というのはよく言われることだが、こういうとすぐにアンケート取得に走るのもよくあるケースである。

しかし、単にそうするだけではその会社は伸びない。

アンケートをとるよりもまず、想像力を働かせ、きちんとデータ調査をし、仮説を立てなければならない。

なぜならアンケートというのはたいていの場合「顧客からしか取れない」からであり、最も重要な「顧客とならなかった人たち」の声が聞けるわけではないからである。

またアンケートにきちんと解答してくれるのは自社に好意的な人が多くなる傾向がある。

よって耳障りの良い解答がならび、社内的には「お客様は喜んでくれている!自分たちは間違っていない!」と声が上がり、結局「足りないのは営業力!営業をもっと頑張ろう!いつかきっと皆分かってくれる!」というところに落ち着き、案の定売れない原因は良く分からないままとなる。

さて、「いつかきっと皆が分かってくれる」なら良いのだが、実際にはその「いつか」が先か、資金が尽きるのが先かのチキンレースとなる。そして、資金が尽きて破綻すればあなたが世に出したかった「良いもの」は結局広まることなく終わり、既存客はもうそのサービスや商品を手に入れる機会を失う。

さて、日本人というのはよく言われるとおり、クレームを言うよりも黙って離れる。

そこであなたの想像力が必要となる。

もしもあなたが顧客の立場ならあなたは自社から買うだろうか。

じっくりと考え、様々な競合を眺めてみることだ。

なぜなら、顧客はそうしてどこに頼むか、何を買うかを決めているのだから。

顧客は多くを語らない。また、顧客は自社の業界や技術、素材に精通しているわけでもない。よって、「本当は何を欲しているのか」に気がついていないこともある。

だからこそあなたが想像力を働かせ、仮説を元に様々な提案を行い、そして「顧客も気が付いていない顧客の欲しいもの」を作り出す必要がある。

こう想像してみて欲しい。

あなたが誰かに好意を持って、交際したいと考えたとする。

何かプレゼントを考えるかもしれない。そのときあなたはどうやったら相手が喜んでくれるかを考えるはずだ。

いきなり「どうしたらあなたが喜ぶか教えてくれませんか?」と言われても、相手も興ざめしてしまうだろう。なぜならそれはとても安易だからである。

たとえば、女性なら嬉しいかもしれないが私はダイヤモンドをもらっても困る。逆に打鍵感の良いキーボードをもらうととても嬉しい。毎日、ほぼ一日中使うものだし、疲れに直接影響するものでもある。

ロマンチックな贈り物にはならないかもしれないが、その人が想像力をもってきちんと私の必要を思い描き、それを満たそうとしてくれたことの思いが伝わるからであり、言わなくてもその人が私の一日を良く見て「知っている」ことを感じるからである。

さて、私がもらっても困るダイヤモンドだが、世の多くの女性はそれに惹かれている。

人間は70年80年で死んでしまうが、永遠の輝きを売りにすることでそれは女性の憧れとなった。

80年しか生きない人間だから永遠の輝きに惹かれてしまうのかもしれない。変わり続けていく人間だからこそ、変わらないものに惹かれる。恐らくはきれいなものが欲しいのではなく、永遠が欲しいのであって、これを小さな石によって実現したのが某社のマーケティングの真骨頂であろう。

これもまた、豊かな想像力の賜物である。

顧客を知る、というのは単に「顧客に聞く」ということではなく、顧客も知らないような顧客の置かれている環境やニーズを拾い上げ、顧客の伝えてくれる情報と組み合わせながら全貌を浮かび上がらせていくという作業である。

俺は自分の売りたいものを売るのだ!

もちろんそれでよい。

あなたは今経営者として自分の信じる「良いもの」を自由に売り出せる環境があり、それも醍醐味である。

新しい価値を生み出す可能性だってある。自信を持って売ればよい。

しかし事業というのはそれで潰れてしまっては元も子もないわけで、その「良いもの」の売上が芳しくなく、事業存続の危機にあるなら何とかしなくてはならない。

そのためにはあなたの売り物を「部分的に購入できる」ように分解したり、あるいは何かと組み合わせたり、またはいったん分解した上で組み直すこともできるだろう。

場合によっては別の「入り口」を作ってそこを通過させることでより関心を持ってもらえるかもしれない。

もう一つ考えられるのは、少し変化を加えた形でリリースすることである。

つまり、もう一度顧客の目線で商品を考え直し、あなたのポリシーが消えない範囲で顧客に合わせていくということである。

あなたはあなたのままで良いが、お互いに少しずつ合わせなければ恋人や夫婦がうまく行かないのと同じである。